交通

茅ヶ崎市議会議員 木山こうじ【「怖がらせる交通安全教育」で、本当に子どもたちの命は守れるのか】

自転車事故多発地域・茅ヶ崎に必要な交通安全教育を考える

以前にも、茅ヶ崎市の交通安全教育についてブログで取り上げました。

自転車事故の割合が高い茅ヶ崎市にとって、交通安全教育をどう充実させるかは、引き続き重要なテーマです。

その中で、全国では今も、スタントマンが交通事故を再現し、事故の怖さを子どもたちに見せる「スケアード・ストレイト型」の交通安全教室が行われている自治体があります。

しかし、私はこの手法については、改めて慎重に考える必要があると思っています。

「スケアード・ストレイト」

聞き慣れない方も多いかもしれません。

これは、スタントマンが自転車事故や交通事故を目の前で再現し、事故の怖さや衝撃を子どもたちに見せる交通安全教育の手法です。

(※写真 東京都品川区HPより)

トラックと自転車の接触事故。
交差点での出会い頭の事故。
車の死角に入った自転車が巻き込まれる場面。

そうした事故の再現を、子どもたちの目の前で行います。

全国では、今もこの手法を取り入れている自治体や学校があります。

もちろん、自転車事故を減らしたいという目的そのものは、とても大切です。

茅ヶ崎市は、自転車を利用する方が非常に多いまちです。

平坦な地形。
コンパクトな市街地。
駅までの移動。
通学や通勤。
買い物。
海岸方面への移動。

日常生活の中で、自転車は欠かせない交通手段です。

だからこそ、自転車の交通安全教育は必要です。

私も、自転車事故を減らすための教育や啓発には強く賛成です。

しかし、ここで改めて考えたいのです。

子どもたちに事故の怖さを見せることは、交通安全教育として本当に効果的なのでしょうか。

「怖かった」と思わせることと、
「安全な行動が身につくこと」は、
同じなのでしょうか。

私は、ここに大きな疑問を持っています。

茅ヶ崎市は、自転車事故の割合が高いまちです

まず、茅ヶ崎市の現状を確認する必要があります。

警察庁の令和7年中の交通事故発生状況によれば、全国の自転車事故は6万7,470件。
全人身事故の23.5%を占めています。


(※グラフ 警察庁自転車交通安全サイトより)

神奈川県内では、令和7年中の人身交通事故21,324件のうち、自転車関係事故は5,477件で、構成率は25.7%でした。

一方、茅ヶ崎市では、人身交通事故734件のうち、自転車関係事故は339件。構成率は46.2%にのぼります。これは県平均の約1.8倍です。

茅ヶ崎市が「自転車交通事故多発地域」に指定されていることは、決して形式的な話ではありません。自転車事故は、このまちにとって極めて身近な安全課題です。

まちの現実として、正面から取り組まなければならない課題です。

青切符制度が始まった今、教育の重要性はさらに増しています

令和8年4月1日から、自転車にも青切符制度が導入されました。

対象は16歳以上の自転車運転者です。

信号無視、一時不停止、右側通行、ながらスマホなど、一定の交通違反について、反則金が科される仕組みが始まっています。

これは、自転車利用者の責任の位置づけが大きく変わったということです。

自転車は、これまで「身近で手軽な乗り物」として使われてきました。

しかし、これからはより明確に、道路交通の一員としての責任が問われる時代になっています。

だからこそ、取締りだけでは不十分です。

大切なのは、制度が始まった今、市民一人ひとりが、自転車のルールと責任を「自分ごと」として理解することです。

特に中学生や高校生は、青切符制度の対象年齢に近い、または対象となる世代です。

ここで必要なのは、単に「ルールを教える教育」ではありません。

ルールを知ったうえで、日常生活の中で安全な行動を選べるようにする教育です。

科学警察研究所の資料が示していること

科学警察研究所の「子ども・生徒を対象とした自転車安全教育」に関する資料を確認しますと、国内外の文献調査をもとに、子どもへの交通安全教育のあり方が整理されています。

そこで示されている大きな方向性は、交通安全教育は一度きりのイベントではなく、発達段階に応じて、繰り返し積み上げていくべきものだということです。

必要なのは、単に交通ルールを知ることだけではありません。

知識。
技能。
態度。

この3つを段階的に育てる必要があります。

知識とは、交通ルールを理解すること。
技能とは、自転車を安全に操作できること。
態度とは、危険を避け、他者に配慮し、責任ある行動を取ろうとする考え方です。

科学警察研究所の資料では、子どもを責任ある自転車利用者にするためには、「知識→技能→態度」の各段階の教育に系統性と一貫性を持たせ、重要な内容をらせん型に何度も繰り返し、徐々に深める必要があるとされています。

これは、私が以前から議会で確認してきた「交通安全教育は、単発の教室で終わらせてよいのか」という問題意識と重なります。

交通安全教育は、実施したかどうかではなく、子どもたちの行動が本当に変わったかどうかで評価されるべきです。

スケアード・ストレイト型教育への評価

科学警察研究所の資料では、スケアード・ストレイト型、つまり恐怖や脅威に訴える教育手法について、かなり慎重な評価が示されています。

多くの人は、怖いものを見せれば行動が変わると考えがちです。

しかし、同資料では、脅威アピールに基づく安全教育の効果は大きくなく、むしろ逆効果となる可能性があると整理されています。

さらに、欧米では、ショックや恐怖に訴える型の安全教育は、子ども・生徒には行われていないとみられる、とも示されています。

これは非常に重要です。

日本では、事故再現を見ると「インパクトがある」「記憶に残る」「効果がありそう」と受け止められがちです。

しかし、交通安全教育で本当に必要なのは、インパクトではありません。

必要なのは、行動が変わることです。

恐怖だけでは、行動は変わらない

資料では、恐怖を使った教育が望ましい行動変容につながるには、条件があるとされています。

それは、脅威だけでなく、具体的な対処法を示すことです。

たとえば、

交差点では、どこで止まるのか。
どのタイミングで左右を確認するのか。
車の死角はどこにあるのか。
右側通行がなぜ危険なのか。
歩行者とすれ違うとき、どう速度を落とすのか。

こうした具体的な行動まで教えなければ、子どもは「怖かった」という記憶だけを持ち帰ることになります。

それでは、日常の道路で安全に行動する力にはつながりません。

むしろ、恐怖だけを強く与えることで、拒絶反応を生んだり、子どもによっては不安を強めたりする可能性もあります。

交通安全教育は、子どもを怖がらせるためにあるのではありません。

子どもが、自分の命と他者の命を守る行動を取れるようにするためにあります。

警察庁ガイドラインの方向性

警察庁の自転車交通安全教育ガイドラインでも、同じ方向性が示されています。


(※警察庁「自転車の交通安全教育 ガイドライン」 令和7年12月 自転車の交通安全教育の充実化に向けた 官民連携協議会資料より)

スケアード・ストレイト方式について、スタントマンによる実演そのものを全面的に否定しているわけではありません。

しかし、事故の恐ろしさを見せることで行動や態度を変えようとする教育には、慎重であるべきだと整理されています。

また、これからの交通安全教育では、危険予測の習得に重点を置くなど、単なる脅威アピールから脱却する必要があるとされています。

これは、私が以前から問題提起してきた方向性と重なります。

必要なのは、「怖がらせる教育」ではありません。

必要なのは、「考えて、判断して、行動できる教育」です。

茅ヶ崎市に必要なのは、行動変容を生む交通安全教育

茅ヶ崎市は、自転車利用が多いまちです。

平坦な地形。
生活道路の多さ。
通学、通勤、買い物での日常的な自転車利用。

こうした地域特性を踏まえると、自転車安全教育は非常に重要です。

だからこそ、取締りや注意喚起だけでは足りません。

子どもたちや若い世代が、ルールの意味を理解し、日常の中で安全な行動を選べるようにする教育が必要です。

そのためには、次のような方向性が重要だと考えます。

通学路や生活道路を題材にした危険予測トレーニング。
学校周辺の交差点や見通しの悪い場所での実践的な学習。
ヘルメット着用や一時停止の意味を考える授業。
1人1台端末を活用した反復学習。
交通安全教室の前後で、理解度や意識の変化を確認する仕組み。
家庭、学校、地域、警察、行政が役割を分担した継続的な教育。

一度のイベントで終わる交通安全教育ではなく、日常に根づく交通安全教育が必要です。

「やった感」ではなく、効果を問う教育へ

スケアード・ストレイト型の教室は、見た目の迫力があります。

実施すれば、強い印象は残るかもしれません。
写真や報道にもなりやすいかもしれません。
「交通安全教室を行いました」という実績にも見えやすいでしょう。

しかし、交通安全教育で本当に問うべきなのは、そこではありません。

子どもたちの行動が変わったのか。
危険を予測できるようになったのか。
一時停止や左右確認が身についたのか。
自転車が車両であるという意識が育ったのか。
事故やヒヤリハットを減らすことにつながったのか。

ここを見なければ、教育効果は評価できません。

幸い、茅ヶ崎市はスケアード・ストレイト方式の再開は考えておらず、今後は、茅ヶ崎市にとって最善の交通安全教室を検討していくとしています。

私は、この方向性は妥当だと考えています。

ただし、「検討します」で終わってはいけません。

科学警察研究所や警察庁の資料が示すように、これから必要なのは、エビデンスに基づいた交通安全教育です。

恐怖ではなく、危険予測。
一度きりではなく、反復と継続。
見せる教育ではなく、考えさせる教育。
実施報告ではなく、行動変容の確認。

茅ヶ崎市が自転車事故多発地域であるからこそ、交通安全教育も一歩進める必要があります。

皆さんはどう思いますか。

子どもたちに必要なのは、事故の怖い記憶でしょうか。
それとも、毎日の道路で自分と周囲の命を守る判断力でしょうか。

私は、後者こそ、これからの茅ヶ崎に必要な交通安全教育だと考えています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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